ドキュメンタリー映画「American Gospel: Christ Alone」:繁栄の神学の深い闇
2021.09.14 繁栄の神学
多くの宣教師を海外に送り出し、世界中の何千万という人々に聖書の福音を伝えてきたキリスト教大国アメリカ。筆者も、アメリカ人宣教師が開拓した教会で救われたクリスチャンであり、アメリカにそのようなイメージを抱いてきました。
しかし、現在そのようなアメリカの姿は変わりつつある、と思わせる動画がYouTubeで公開されています1。このドキュメンタリー映画「American Gospel: Christ Alone」(アメリカン・ゴスペル:キリストのみ)では、アメリカのキリスト教が「繁栄の神学」と呼ばれる本来のキリスト教とはかけ離れた教えを世界中に広め、聖書の福音をゆがめてしまっている現状を多くの人の証言をまとめて論証しています。
MEMO
YouTubeで公開されている「American Gospel: Christ Alone」は短縮版で、完全版は動画配信サイトのVimeoで購入できます。
「ワード・オブ・フェイス運動」とも呼ばれる繁栄の神学は、日本人が思う以上にアメリカと世界のキリスト教界を侵食しています。
「繁栄の神学のゴッドファーザー」と呼ばれるケネス・コープランドのテレビ番組「Believer’s Voice of Victory」(信者の勝利の声)は、全米ネットワークのテレビ局で放送され、全世界で数千万人の視聴者がいるとされます(公称値は8億8千5百万人)。ケネス・コープランドは、繁栄の神学の指導者として世界的に大きな影響力を持ち、数年前に日本でも大会が開かれた「エンパワード21」のリーダーの一人でもあります。
テキサス州レイクウッド教会の牧師、ジョエル・オースティーンの説教は100か国以上で毎月2,000万人以上に視聴されており2、レイクウッド教会は教会員数4万3千人を誇る全米最大のメガチャーチです3。米月刊誌『チャーチレポート』による2019年の調査では、「米国で最も影響力のあるクリスチャン」の第2位となっています4。オースティーンの著作はPHP出版から日本語訳も出版されています。
また、「いやしの伝道者」ベニー・ヒンは、自身のいやしの集会「ミラクルクルセード」には数年何千万人が参加し、インドでは730万人が参加する記録的な集会となったと語っています5。
映画「American Gospel: Christ Alone」では、こうした繁栄の神学を説く指導者の教えが聖書の福音から遠くかけ離れていることを示すと同時に、聖書の福音を映像を使ってわかりやすく解き明かしています。
このドキュメンタリーの中では、繁栄の神学を教える人々の側からも、それを批判する人々の側からも、多くの証言や教えが収録されています。以下ではその一部を紹介します。
MEMO
本編(短縮版ではない)の中で、繁栄の神学を批判する側の意見として、置換神学寄りかなと思われる発言が少しありますが、全体としてはお勧めできる内容になっています。
繁栄の神学の教え
ドキュメンタリーの中で、繁栄の神学の批判的研究で知られる伝道者、ジャスティン・ピーターズは次のように語っています。
繁栄の福音は、人間の最も根本的な2つの欲求に訴えかけます。富と健康です。
富と健康を求めること自体は、別に悪いことではありません。問題は、神よりも、富と健康を求めることが信仰の中心になり、偶像化していることです。以下に、映画の中で紹介されている繁栄の神学の教師たちの発言を見ていきましょう。
富の約束
映像の中で、先述のケネス・コープランドは次のような発言をしています。
金よ!私のもとにやって来い!
イエスは銀行家です。イエスは「天に宝を蓄えなさい」と言いました。皆さんは「魔法の鉛筆は天にあるから、地上では天の預金は下ろせない」と言われるでしょう。天に積んだ宝は 地上で引き出せるのですよ…(と言い、自分たちの団体に献金をうながす)
献金の時間です。収入をアップさせるチャンスですよ。
自分たちの団体に献金すれば、神に祝福され、収入として何倍にもなって返ってきますよ、という意味です。神の働きのためにささげるというよりも、自分たちの経済的利得のために献金をささげるという教えです。そのような教えは、カリフォルニア州レディングにあるベテル教会牧師、ビル・ジョンソンの以下の発言にも見られます。
皆で大胆な告白をしましょう。今日の献金にあたって主が与えてくださると信じます。より良い仕事、昇給とボーナス、給付金、売上とコミッション、自分に有利な問題解決、不動産と遺産…
また、テレビ伝道者のクレフロ・ダラーは、物欲が自分の信仰の中心にあることを隠そうともしていません。
CNNキャスター:イエスも ロールスロイスに乗りたかったと?
ダラー:はい。そう思います。ロバも目立つ乗り物でした。
私の神への信仰が6500万ドルの飛行機のためのものであっても、誰にも文句は言わせません。
If I wanna believe God for a 65 million dollar plane, you cannot stop me..
健康の約束
ジョエル・オースティンは、信仰の言葉(ワード・オブ・フェイス)の重要性を強調し、積極的な告白によって健康を得ることができると教えています。
病があるなら、「私は健康だ」と言いましょう。
ケネス・コープランドの妻、グロリア・コープランドは「イエスが私たちの病を負ってくださった」というイザヤ53:4のことばを曲解して6、次のように教えています。
「私は絶対インフルエンザにかからない」と何度も言いましょう。イエスご自身が ワクチン注射を打ってくれました。注射は済んでいます。イエスが私たちの病を負ってくれたのですから。
ビル・ジョンソンは、信仰によって病がいやされると教え、次のように語っています。
病を認める神学は拒否します。
また、「いやしの伝道者」ベニー・ヒンも、次のように語ります。
信じてください。私は決して病気にかかりません。
神様はあなたの健康を望んでいます。私は神の癒しを施しに世界中を旅しています。
ただ、このような発言に対し、ベニー・ヒンの甥である牧師コスティ・ヒンは、次のように語っていやしの約束を語る人々に疑問を投げかけています。
叔父や父の癒しの集会に出て育つ中で、疑問に思いました。賜物があって人を癒せるのになぜ病院で癒やさないのか?と。なぜ学校や癌の友人の家に行って癒しを祈らないのか?癒せると言うのになぜそうしないのか?なぜ音楽が必要なのか?(注:ベニー・ヒンの集会では、いやしのミニストリーの前に長時間の賛美演奏がある)
存在しないものを生み出す「信仰の言葉」
繁栄の神学は、「ワード・オブ・フェイス」(信仰の言葉)運動とも呼ばれますが、それは「信仰によって語った言葉は現実化する」という教えが背景にあるためです。この教えは、創世記で神がことばによって世界を創造したように、クリスチャンも信仰の言葉によって物事を現実にできると教えます。たとえば、繁栄の神学の指導者で、日本語サイトでもミニストリーを展開しているジョイス・マイヤーは、次のように語っています。
神は存在しなかったものを言葉で存在せしめる方です。それがあなたの言葉の力です。
また、ジョエル・オースティンは、次のように教えています。
あなたの言葉には創造の力があります。ポジティブな告白をすれば、それが現実になるのです。
私は若い。私は美しい。私は魅力的だ。…「私は」に続く言葉は現実になるのです。
ワード・オブ・フェイス運動で、神がことばによって世界を創造したように、私たちも信仰の言葉で物事を現実にできると教えるのは、「人と神は同種の存在」という教えが背景にあるためです。これは、この運動の最も危険な教えのひとつです。この点を最後に見ていきます。
「小さな神」の神学
繁栄の神学の中でも最も危険な教えは、クリスチャンは「小さな神」であるとする「”Little god” doctrine」(「小さな神」の神学)です。「クリスチャンは信仰の言葉によって現実をつくり出すことができる」という教えの背景には、この「小さな神」の神学があります。以下に「American Gospel」で紹介されている実際の発言を見ていきます。
テレビ伝道師、クレフロ・ダラーは次のように語っています。
皆さんは 小文字の god(神)です。
カリフォルニア州レディングにあるベテル教会で、ビル・ジョンソンと共に牧師を務めるクリス・バロットンも、次のように語っています。
神は 「God」で、皆さんは小文字の「god」です。
また、ケネス・コープランドは次のように語ります。
あなたはイエスとまったく同じ霊のDNAを持っています。ハレルヤ!あなたは主の双子の兄弟です。
アダムは神に限りなく似た者でした。「神に少し似ている」ではなく、「神とほとんど同じ」でもなく、「神の下位にいる者」ですらありませんでした。世に来られたイエスと同様に、アダムは神に似た者でなく、肉体を持った神だったのです。
神の「わたしはある」の言葉を読むと、私は「わたしはある」と言います。神があなたの中にいるのではなく、あなたが神なのです。神がアダムを創造したのは、ご自身を複製したかったからです。
「わたしはある」とは、神の御名です(出エジプト3:14)。つまり、コープランドが「わたしはある」と言っているのは、聖書的には自分は神であると言っているのと同じことです。
グレース・コミュニティ教会牧師のフィル・ジョンソンは、次のように語り、ケネス・コープランドの教えを批判しています。
それがコープランドの教えの核心であり、世のキリスト神学の中でも最も邪悪で悪魔的な教えです。…これはキリスト教ではありません。
また、ワード・オブ・フェイス運動の教えに対して、ジャスティン・ピーターズは次のように語っています。
はじめの罪への誘惑は「神のようになる」という欲望でした。この神を引き下げ、人を神格化する教えが「ワード・オブ・フェイス」「繁栄の福音」の核心です。
「はじめの罪への誘惑」とは、創世記3:4~5で蛇(サタン)がエバにこう誘惑したことに言及しています。
4 すると、蛇は女に言った。「あなたがたは決して死にません。5 それを食べるそのとき、目が開かれて、あなたがたが神のようになって善悪を知る者となることを、神は知っているのです。」
今、ワード・オブ・フェイス運動が陥っているのも、同じ誘惑であり、同じ罠です。
預言通りのことが起こっている
クリスチャンと呼ばれる人々が「小さな神」の神学に引かれていく今のような状況は、驚くべきことですが、すでに預言されている状況でもあります。1テモテ4:1では、次のように言われています。
しかし、御霊が明らかに言われるように、後の時代になると、ある人たちは惑わす霊と悪霊の教えとに心を奪われ、信仰から離れるようになります。
「惑わす霊と悪霊の教え」には、創世記3章でサタンが語った「神のようになる」という偽りの教えが含まれているのは間違いありません。繁栄の神学は、もはやキリスト教と呼べるものではなく、キリスト教をまったく別の宗教に変えてしまう教えです。
この記事を書いた人:佐野剛史
- この映画は英語で制作されていますが、日本語字幕も表示できます。YouTubeで日本語字幕を表示するには、「設定」(歯車のアイコン)>「字幕」>「日本語」の順に選択してください。なお、再生する環境で異なる可能性がありますが、動画の後半は字幕が付いていないようです。ただし、完全版にはすべて字幕が付いています。 ↩
- ウィキペディア「ジョエル・オスティーン」 ↩
- ウィキペディア「レイクウッド教会」 ↩
- Church Report, “America’s Top 50 Most Influential Christians” (https://www.thechurchreport.com/65/) ↩
- WikiPedia “Benny Hinn” (https://en.wikipedia.org/wiki/Benny_Hinn)。ベニー・ヒンについては、本サイトの記事「[ベニー・ヒンの甥、コスティ・ヒンの告白](https://harvestwatch.tv/novelteaching/confession-of-costi-hinn/)」もご参照ください。 ↩
- イザヤ53章は、イエスが私たちの罪とその刑罰を背負ってくださったという文脈で語られています(イザヤ53:6等参照)。イザヤ53:4で「病」と訳されているギリシャ語「コリー」は、「悲しみ」(リビングバイブル)、「grief」(ASV)とも訳される言葉で、病気よりも広い意味があります。 ↩