聖書信仰の見張り人たち

聖書信仰の見張り人たち

リック・ジョイナー「パウロの言葉は信仰の土台ではない」

新使徒運動(NAR)の自称使徒、リック・ジョイナーは、著書『Final Quest』の中で、幻の中に現れたパウロが「自分の言葉を信仰の土台としてはいけない」と語ったと記し、聖書と矛盾する内容を教えている。この発言は、実質的にパウロの書簡が聖書の一部であることを否定するもので、異端的教えだ。

リック・ジョイナーは、1980年代後半から預言者・使徒運動を展開してきたNARの中心的な指導者だ。ジョイナーは、神から見せられたという終末時代の幻を書き記し、3部作のシリーズ本として出版している(『Final Quest(ファイナルクエスト)』シリーズ)。この著作に記された幻の中には、使徒パウロも登場する。ジョイナーは、パウロが自分に語った言葉として、次のような内容を記している。

土台の石はイエスのみによって据えられました。私の人生と宣教は、あなたの召しの模範となるものではありません。模範はイエスだけです。私の書いたものを土台とするなら、その上に建てる必要があるものの重みに耐えることができません。私が書いたものは、唯一の土台の上に建てられる必要があります。その土台だけが、今からあなたが経験しようとしていることに耐えることができるのです。私の書いたものを土台にしてはなりません。私の教えは主の教えを通して見る必要があります。私の視点から主を理解しようとしてはなりません。主の言葉が土台です。私は、主の言葉を解説し、その土台の上に建てただけです。最も偉大な知恵、最もパワフルな真理は主の言葉であって、私の言葉ではありません。1

【原文を読む】


The foundation stones were laid by Jesus, alone. My life and ministry are not the example of what you are called to be. Jesus alone is that. If what I have written is used as a foundation, it will not be able to hold the weight of that which needs to be built upon it. What I have written must be built upon the only Foundation that can withstand what you are about to endure; it must not be used as the foundation. You must see my teachings through the Lord’s teachings, not try to understand Him from my perspective. His words are the foundation. I have only built upon them by elaborating on His words. The greatest wisdom, and the most powerful truths, are His words, not mine.

この言葉はパウロが語ったものとされているが、「私の書いたものを土台とするなら、その上に建てる必要があるものの重みに耐えることができません」という言葉は聖書と矛盾する。聖書では、パウロは次のように語っているためだ。

10 私は、自分に与えられた神の恵みによって、賢い建築家のように土台を据えました。ほかの人がその上に家を建てるのです。(1コリント3:10)

パウロは明確に、自分が土台を築いたこと、そしてその上にほかの人が教会(家)を建てると語っている。

ジョイナーが記しているように、イエスが土台であるというのはその通りだが、自分の宣べ伝えた福音は「イエス・キリストの啓示によって受けた」(ガラテヤ1:11~12)とパウロは言っているので、パウロが築いた土台はすなわちイエスの土台であり、この2つは不可分である。ここに強引に区別を設けて、パウロの言葉は土台ではなく、イエスの言葉のみが土台だと言うことは、パウロが書いた書簡の聖書としての権威を否定することになる。それは、次の聖書箇所にあるペテロの言葉とも矛盾する。

その手紙でパウロは、ほかのすべての手紙でもしているように、このことについて語っています。その中には理解しにくいところがあります。無知な、心の定まらない人たちは、聖書の他の箇所と同様、それらを曲解して、自分自身に滅びを招きます。(1ペテロ3:16)

ここでペテロは、「聖書の他の箇所と同様」と語ることで、パウロの手紙を聖書の一部と考えていることを明らかにしている。

このように、パウロ自身が主張し、ペテロも認めているパウロ書簡が持つ聖書としての権威を、ジョイナーは自分が見た「幻」によって否定している。聖書ではない言葉に権威を与えて聖典とし、その新たな聖典によって聖書の権威を実質的に否定するというのは、キリスト教の異端が行う常套手段だ。

私たちは、聖書の最後に書かれている次の言葉を心に留めるべきだ(黙示録22:18~19)。

18 私は、この書の預言のことばを聞くすべての者に証しする。もし、だれかがこれにつけ加えるなら、神がその者に、この書に書かれている災害を加えられる。 19 また、もし、だれかがこの預言の書のことばから何かを取り除くなら、神は、この書に書かれているいのちの木と聖なる都から、その者の受ける分を取り除かれる。

この記事を書いた人:佐野剛史

写真:(c) MorningStar Ministries


  1. Rick Joyner, The Final Quest (MorningStar Publications, 2009) (Kindle 版)